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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)3953号 判決 1960年5月19日

原告 中野徹也

被告 合同電材工業株式会社

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告会社が昭和三〇年七月五日臨時株主総会の名においてなした別紙記載の株主総会の決議は無効であることを確認する。仮に無効でないとすれば、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、請求の原因として、

第一、原告は昭和二五年五月二二日被告会社が設立の際株式四〇〇株を引受けて発起人となり爾来株主として今日に及んでいる。

第二、被告会社は、昭和三〇年七月五日臨時株主総会(以下本件株主総会と称する)を開催し、発行済株式の総数の過半数にあたる株式を有する株主が出席し満場一致の決議を得たと称して、末尾添付の決議事項のとおり定款を変更し、役員の改選、検査役の選任などした。

第三、しかしながら、被告会社が右株主総会を招集したと称する当時は、原告がその代表取締役社長であり且つ株主の一人であつたに拘らず、原告は右株主総会を開くため取締役会を招集した事実なく、またその決定に基く株主総会を招集した事実もないし、右各招集について如何なる方法による通知も受けていない。

第四、従つて、前記決議なるものは、全く招集せられた事実がない株主総会を恰も招集開催せられた如く仮装してなされたものであつて、無効である。

仮に右決議が無効でないとしても、右決議は株主総会招集の手続及びその決議の方法に左記のとおり瑕疵があるから法令に違反し取消さるべきである。

(1)  招集権限なき者の招集、

本件株主総会を開催すべき旨決定した取締役会並びにその決定に基き開催したと称する本件株主総会は、いずれも当時唯一の代表取締役であつた原告以外の無権限者により招集せられたものであるから、その手続に違法がある。

(2)  招集通知の欠缺

本件株主総会招集につき株主たる原告にその通知をしていない。

(3)  株主にあらざるものの参加

更に、本件株主総会の決議には、その株主にあらざる橋本忠次を参加せしめている。

以上により、本件株主総会の別紙決議の無効確認或いは取消を求めると陳述し、被告の主張に対し次の如く述べた。

一、被告会社の前身は有限会社合同電業社と称し、訴外町田亀太郎がその代表取締役であつたが、右会社は解散し、被告会社が設立せられたのである。しかして、被告会社設立後、町田は表向きは役員とならず一株主の地位にあつたが、実質的には依然として会社の主宰者であり、すべて自己の指示により会社を運営していたのである。原告が代表取締役に就任後株主総会を開催しなかつたのも一に町田の意思によるものであり、その間株主より株主総会の開催についてその請求を受けた事実など全然なかつた。

二、原告が発起人として引受けた被告会社の株式四〇〇株の株金二〇、〇〇〇円を町田亀太郎において支払つたことは認めるが、それは同人が原告のために立替払をしたに過ぎず、原告が発起人且つ株主であることを左右にするものではない。町田が発起人の支払うべき株金を立替払したという事実は原告以外の発起人についても亦同様であるから、若し被告主張の如く現実に金を出した者が発起人であるというならば、被告の主張は結局町田一人が発起人であり全株式を引受けて被告会社を設立したということになる。

三、被告会社は、本件株主総会を開いたと主張する昭和三〇年七月五日までには株券を発行していない。株主から株券発行の請求もなかつた。従つて原告は株券を所持していない。

証拠として、甲第一乃至七号証、同第八号証の一、二同第九号証検甲第一号証を提出し、原告本人尋問の結果(第一、二回)を援用し、乙第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四及五号証、同第六号証の一、同第一二号証の一、四、五、同第一五号証の二、同第一八号証の各成立を認め、同第二号証、同第三号証の一、二を利益に援用し、同第六号証の二の中郵便官署作成部分の成立を認め、其の余の部分の成立及び爾余の乙号各証の成立はすべて不知と述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

一、原告主張の第一の事実はこれを否認する。

二、同第二の事実は認める。

三、同第三の事実中、被告会社が昭和三〇年七月五日本件株主総会を開催するまで原告が代表取締役社長であつたこと、右株主総会が原告の招集にかかるものでない事実は認めるが、其の余はこれを争う。

四、同第四の事実中、本件株主総会の決議が無効或いは取消さるべきであるとの原告の主張は争う。

同(1) の事実中、本件株主総会が原告の招集にかかるものでない事実を認め其の余は争う。

同(2) の事実はこれを否認する。

同(3) の事実中、橋本忠次が本件株主総会の決議に参加した事実を認め、其の余はこれを否認する。

と述べ、次のとおり主張した。

一、原告は、被告会社の設立にあたり形式的に発起人として株式四〇〇株の引受を仮装し、唯名義のみ株主となつたに過ぎず、その払込金二〇、〇〇〇円は訴外町田亀太郎が原告の承諾を得て株式引受人本人として支払をなしたのである。故に右株式の実質的株主は町田亀太郎である。たとえ同人と原告との間に町田の右支払を原告の払込とする旨の合意がなされていたとしても、それは通謀虚偽表示として無効である。

二、本件株主総会が開催された経過は次のとおりである。

原告は昭和二六年五月二五日被告会社の代表取締役に就任して以来株主総会の開催をなさず、法律並びに定款に定められた取締役の任期三年を経過するもそのまま放任し、他の取締役及監査役を始め株主より定時株主総会を招集して役員の選任、営業報告書、財産目録貸借対照表、損益計算書等の承認を求むべきことを要求さるるも、原告は恬としてこれに応ぜず、一回の株主総会をも開催しなかつたのである。

そこで昭和三〇年五月二八日被告会社の取締役篠永正二、同長谷川芳夫は同日付右両名連名名義で取締役たる原告に対し同年六月二五日午前一〇時大阪市東淀川区堀上通三丁目三六番地三星工業株式会社内別室にて取締役会を開催する旨の招集通知をなしたが、当日原告は欠席し、取締役篠永、同長谷川の二名出席した。そこで篠永取締役が議長となり、取締役会を開き、代表取締役選任並に少数株主による株主総会招集の要請により臨時株主総会を招集するの件其の他の議案を上程した上、代表取締役たる原告は代表取締役としての職務執行に欠くるところがあるので、更に代表取締役一名を増員したい、少数株主よる株主総会招集の請求もやむを得ないと思はれるので早急に総会を開催する必要があることを述べ審議の結果、篠永取締役が代表取締役に選任され、同時に株主総会を招集する旨の決議がなされたのである。次いで、篠永は代表取締役として、同年六月二五日付「少数株主による株主総会招集の要請により来る七月五日午前一〇時より福岡市奥小路七番地三星工業株式会社会議室において(イ)第一号議案、定款変更の件、本店の所在地変更、株式の総数変更、事業年度の変更、(ロ)第二号議案、営業報告書財産目録、貸借対照表、損益計算書及び欠損金処理計算書案承認の件、(ハ)第三号議案、取締役、監査役改選の件、(ニ)第四号議案、検査役選任の件、以上の事項について決議を求めるため臨時株主総会を開催する」旨記載した書面をもつて、各株主にその招集通知をなしたところ、右七月五日、被告会社の株式総数四、〇〇〇株、此の議決権数四、〇〇〇個、株主の総数九名中、株式総数三、二〇〇株、此の議決権数三、二〇〇個、株主数七名が出席し、各議案について審議の結果満場一致をもつて別紙決議事項のとおり可決したのである。

四、橋本忠次は本件株主総会開催当時被告会社の株式四〇〇株の株主である。同人は昭和三〇年一月訴外町田亀太郎より右株式を譲受けて株主となつたのであるが、株主名簿の名義書替手続が未了であつたに過ぎず、かかる場合会社の側より右譲渡の事実を認めるのは何等妨くるところがない。

五、仮りに、百歩を譲り、原告が株主であるとしても、株主総会の決議の効力を争うのは会社自体の利益のためにのみ許容されるというべきところ、被告会社は昭和三二年六月二六日の株主総会において取締役の任期満了による新たな取締役の選任が行はれたか本件株主総会の決議についても早やこれを争う法律は存在しない。

と述べ、

証拠として、乙第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四、五号証、同第六号証の一、二、同第七、八号証、同第九号証の一、二、同第一〇号証の一、同号証の二の一乃至四〇、同第一一号証、同第一二号証の一乃至六、同第一三、一四号証、同第一五、一六号証の各一、二、同一七乃至二〇号証(乙第一九号証は写)を提出し、証人町田亀太郎、同篠永正二、同橋本忠次の各証言並びに被告会社代表者本人訊問の結果を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

被告会社が昭和三〇年七月五日臨時株主総会を開催し、発行済株式の総数の過半数にあたる株式を有する株主が出席し満場一致の決議を得たとの理由により末尾添付の決議事項のとおり定款を変更し、役員の改選、検査役の選任などしたことは当事者間に争がない。

原告は、右株主総会は、その招集当時代表取締役であつた原告においてこれを招集したものでなく、また右総会開催のための取締役会の招集をした事実もないから、右株主総会の決議は法律上不存在であると主張し、原告が右総会招集並びに開催当時代表取締役社長であつたこと、右総会が原告の招集にかかるものでないことは当事者間に争がなく、成立に争なき甲第七号証の被告会社の定款によれば、取締役社長は会社を代表し業務を総攬し(第二八条)、取締役会を招集し其の議長となる(第三一条)旨定められて居り、株主総会の招集権者は代表取締役である(商法第二六一条三項、第七八条一項)ことは法の規定により明らかなところ、被告は原告の右主張に対し、本件株主総会は被告主張の如き経過、即ち、要約すれば、被告主張の如き事情のもとに取締役篠永同長谷川が昭和三〇年五月二八日取締役会招集通知をなし、同年六月二五日午前一〇時大阪市東淀川区堀上通三丁目三六番地三星工業株式会社内で取締役会を開催の結果、篠永取締役が新たに代表取締役に選ばれ、株主総会を開催する旨の決定がなされたので、篠永が代表取締役として同年六月二五日付書面をもつて総会招集の通知をなし、同年七月五日午前一〇時福岡市奥小路七番地三星工業株式会社において本件株主総会を開催したものであると主張する。

よつて按ずるに、いずれも成立に争なき甲第七号証、乙第二号証、同第三号証の一、二、同第五号証、被告会社代表者本人の供述により成立を認むべき同第七号証と証人篠永正二、同町田亀太郎の各証言、被告会社代表者本人の供述を綜合すると、被告会社は昭和二五年五月二二日設立し、訴外泉武男、同篠永正二、同長谷川芳文及び原告の四名が最初の取締役に、泉武男が代表取締役に就任したが、昭和二六年五月二五日取締役兼代表取締役泉武男辞任により取締役の数は三名となり同日原告が代表取締役に選任されたこと、定款の規定によれば、取締役の任期は三年、但し任期中の最終の決算期に関する定時総会終結以前に任期満了する場合にはその任期は該総会の終結するまで伸長する(二五条)、決算期は毎年二月末日及び八月末日とする(三四条)と定められていること、被告会社の実体は訴外町田亀太郎の営業を会社組織にしたもので、町田は事実上資本金の全額を出資して会社を設立した等の事情から、被告会社を主宰していたので、原告は町田の指示のもとに会社を運営し、事業報告は町田にこれをなすをもつて足れりとなし、原告の代表取締役に在任中定款に定められたる四月及び一〇月の定時総会(一八条)は一回もこれを開いたことなく、商法の一部が昭和二五年法律第一六七号をもつて改正され昭和二六年七月一日より施行された新商法第二五六条、商法の一部を改正する法律施行法(同年法律第二一〇号)の規定により原告を含む取締役全員の任期が遅くとも昭和二八年一〇月末日限り任期満了し、原告は新に選任せられたる代表取締役の就任するまで仍代表取締役としての義務を有する(商法二五八条、第二六一条三項)から、速かに新たに取締役等役員選任のため株主総会を開くべき必要生じたるに依然としてその手続を怠り、取締役会の招集もしないので、取締役篠永は同長谷川と相談の上昭和三〇年六月二五日に取締役会を開くことを決しその会日より数日前電話で原告に打合せの上大阪駅前の喫茶店で原告に面接し取締役会に出席方要望したが、原告は右会日被告主張の場所に出席せず、取締役篠永、同長谷川の二名が出席したので、直に取締役会を開催し、右篠永を代表取締役に互選の上被告主張の如く株主総会を開催することを決定し、篠永は代表取締役として昭和三〇年六月二五日付被告主張内容の臨時株主総会招集通知を株主高島富子其の他になし原告に対しては同月二五日頃大阪駅前の喫茶店で右株主総会に出席方連絡したが、原告は右会日に福岡市内の招集場所に出席せず、被告会社の株式総数四、〇〇〇株、此の議決権数四、〇〇〇個株主の総数九名中株式総数三、二〇〇株、此の議決権数三、二〇〇個株主数七名が出席したので各議案について審議の結果、満場一致をもつて別紙決議のとおり可決したこと、そこで、被告会社は同年七月五日付をもつて会社が発行する株式の総数一六、〇〇〇株、同日取締役原告、監査役宇野秀顕退任、長谷川芳文、篠永正二、渡辺弘志それぞれ取締役に就任、泉武男監査役に就任、取締役たる代表取締役は資格喪失により同日退任、同日代表取締役長谷川芳文代表取締役に就任の旨登記を経たこと等の事実を認め得べく原告本人の供述(第一、二回)中右認定に反する部分は証人篠永正二、被告会社代表者本人の各供述に照して採用し難く、他に右認定を左右にする資料はない。

ところで、取締役会の招集手続が法令又は定款に違反した場合に、その決議についてその取消の訴を認めた特別の規定はないから右決議は当然無効であると解し、無効の決議により代表取締役に選任せられたものが、無効な取締役会の決議に基き株主総会を開催しても、それは畢竟代表資格なき取締役が取締役会の決定を経ることなく株主総会を開いたことになり、無権利者の招集というべきであるからその株主総会の決議は法律上不存在であるとの有力な解釈も存するが、当裁判所は、法的確実乃至表示主義等の要請から、社団内部における会社意思に関する瑕疵の処理については出来得る限り合目的的解釈をとる必要があると解する。かかる見地に立つて考えるときは、例えば取締役会構成員にもあらざる謂わば局外者が取締役会の決定も経ることなく株主総会を招集した場合の如きはその決議は法律上不存在であると解すべきであるが、本件の場合は斯る場合とは異り、前記認定の如く一応取締役構成員が全員でないにしても集合して取締役会なるものを開き、代表取締役の選任並に株主総会を開催すべき旨の決定をなし代表取締役に選任された取締役が右決定に基き株主総会の招集手続をなし、発行済株式の総数の過半数に当る株主出席し総会の決議がなされたのであり、且つ右決議に基く登記手続も経ているのであるから、たとえ取締役会の決議に法令又は定款違反の瑕疵があつても、それは所詮株主総会の招集手続上の瑕疵と解すべく株主総会の決議取消の事由となるに止まり、株主総会決議無効又は不存在とはならないと解するのが妥当である。よつて本件株主総会の決議不存在の確認を求める原告の本訴請求は失当であると認めこれを棄却する。

次に、本件株主総会の決議取消の主張について判断するに、株主が株主総会決議取消を求めるためには、株主がその訴提起の時に株主名簿上の株主であることを要すると解すべきところ、原告が被告会社の株主名簿上の株主であるとの証拠なく、却つて被告会社代表者渡人の供述により成立を認め得る乙第一〇号証の二の一乃至四〇によれば原告は被告会社の株主名簿に株主として登載されていない事実が認められるから、総会決議取消を求める本訴請求は既にこの点において棄却を免れない。

以上により、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大江健次郎)

決議事項

一、定款第三条「当社の本店を福岡市」に置くとあるを「大阪市」に置くと変更する。

定款第四条「当社の資本総額は二拾万円」とあるを「本会社の発行する株式総数は一万六千株とする」と変更する。

定款第六条を左の如く変更する。

「当会社の発行する額面株式一株の金額は五十円とし額面株式四千株を額面価格を以て発行する」と変更する。

定款第十条の全文を削除し左の如く変更する。

「本会社の設立の時に定めたる会社が発行する株式総数に対して発行する新株については株主は新株引受権を有するものとする。但し新株の発行に当り取締役会の決議を以て各回の発行株式の全部又は一部を排除することが出来る」と変更する。

「定款第三十四条」当会社の決算期は年二回を毎年二月末日及八月末日の両度とする」とあるを

「当会社の事業の年度は毎年五月一日に始まり翌年四月末日に終る一ケ年とする」と変更する。

二、取締役として長谷川芳文、篠永正二、渡辺弘志を、監査役として泉武男を、検査役として橋本忠次を、夫々選任する。

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